PEOPLE & LIFE

夫婦ふたり、週末の山旅と暮らしのTRIP COFFEE。

Toriumiさん (神奈川)

平日は仕事、週末は山と旅。
自家焙煎をしたコーヒーと、手作りのお菓子やケーキをお供に旅に出ます。

2022.11.15

山帰りにOn the river ROASTERYに立ち寄って下さったtoriumiご夫妻にNeji Coffee Roaster(以下NCR)の購入動機や使い心地・工夫など、その他あれこれ伺ってみました。
(以下、M:マスミツ  T:toriumiさん/ 取材日:2022年11月)



M:
『どうしてコーヒー焙煎を始めようと思ったのかお伺いしても良いですか?』

T:
『私達夫婦は、登山が好きで山を旅しに行きます。
山旅では、山頂や山小屋やテント場の休憩時に飲みたくなるのがコーヒーです。コーヒーは、淹れる行為そのものと、香りと味わいで、登山中の緊張感から解き放たれていきます。

山の上でコーヒーを淹れる。道具もお気に入りばかり。

ゆったりとした時間の中で、景色や風の音や森の音が、より鮮明に心に刻まれる様な気がして私たちには欠かせない飲み物になりました。登山するには、なるべく荷物を減らしたいのですが、お湯を沸かすだけのインスタントコーヒーでは物足りず、次第にドリップする為の道具やグラインダーを持ち出していました。コーヒー豆は、量販店などで販売されている豆から始まり、カフェなどで見つけた豆、ロースタリーで購入したお気に入りの豆など、いつしかコーヒー豆もこだわる様になりました。アウトドア雑誌で、キャンプで焙煎したコーヒーをその場で飲むという特集などを読むうちに、焙煎に興味を持ちながらも、生豆や道具の入手は どうしたら良いのか行動出来ずにいたところ、偶然入った自家焙煎豆の cafe(7325coffee)のオーナーが高校時代のクラスメイトだった事から、手網焙煎を教えて頂きました。以来、自宅や旅先で楽しむ為のコーヒー豆を焙煎する生活が始まりました。』

休憩タイム。今日はコーヒーと手作りの“りんごのタルト”。


M:
『自然を感じながらコーヒーを楽しむことからコーヒー焙煎にも興味が出てきたのですね。
NCRの購入前はどのようにしていたのですか?』

T:
『NCR購入前は、アパートのキッチンで手網焙煎をしていました。』

『1度に100g約20分、それを2~3回、チャフを撒き散らしながら手網を振る腕の痛みと、持ち手は火に近いので熱さに耐えながらの焙煎です。焙煎中は、火力の調整と手網を振る高さ、スピード、コンロに溜まったチャフに引火しないように注意したりと、耐力が必要でした。焙煎後に、飛散したチャフで汚れたガスコンロや、コンロ周りと換気扇の掃除は時間を要しました。手網は保温力が無いので、火力調整が難しく、特に冬場は焙煎が思う様な仕上がりに成らず、手間がかかる割に量を焙煎出来ない事が気になっていました。
しかし、私は自ら焙煎した豆でコーヒーを淹れる事、身近な人に振る舞う事が喜 びになっていたので、焙煎の手間は有っても続けて行きたい趣味の一つになっていました。』

自宅でのキッチンにて焙煎中。


M:
『手網焙煎は手間がかかる、気も使う、でもそれがまた良いところですね。人柄が伝わる焙煎方法だと思います。
NCRの購入理由と経緯を教えて頂けますか?』

T:
『NCRとの出合いは偶然的なものでした。』

『私達は山梨、長野界隈の山へ出掛けると 下山後はいつも北杜市のNICE TIME CAFEに立ち寄ります。そのカフェが東京のギャラリーで出張カフェをした際に、共同企画で在廊されていたのがマスミツさん(NCR共同制作者)でした。山梨県北杜市に在る暮らしの場所’On the river’のお話をするマスミツさんの熱い眼差しは、今でも思い出されます。
その後、登山の帰りにその事を唐突に思い出し、立ち寄った際に山で淹れるコーヒーや道具の話をしたのがきっかけで、度々On the riverに通う様になりました。ある日、工作機械などが入るアトリエをガラス戸越しに何気なく覗いた時にあった、黒鉄のドラムの手回し焙煎機。私の眼には新鮮で心惹かれる鉄の造形でした。それがNeji Coffee Roasterだったのです。

On the river RoasteryにてNCRで焙煎体験。焙煎したばかりの豆で試飲。
コーヒー道具は山での携帯仕様。

 コーヒー豆の焙煎とは?と問われても私には答える事が出来ません。
コーヒーは 好きだが、特別な勉強をしているわけでもなく、プロ仕様の焙煎機で、幾つもの操作を必要とするデータに基いた、繊細な焙煎の技術も経験もありません。したがっ て、世に出回る数多くの焙煎機のスペックやレビューを比較し、善し悪しを述べるレベルでないのが正直なところです。

では、何故NCRを購入したのか。
それは焙煎機は調理器具を購入する感覚でした。

大量生産の最新のフライパンにするか、職人が作る鉄の叩き出しのフライパンにするかの、2択があるならば私は後者を選択するタイプなのです。焙煎機は大きな買い物だと思いますが、実際に使用感を比べる事は難しく、レビューなどはやはり十人十色の好みがあるので、あくまでも参考意見でしかありません。

「焙煎量を増やし、蓄熱性を高めて、手網焙煎より効率良く焙煎したい」
「もっと多くの人に 喜んで貰えるコーヒーを届けたい。」

、、とそう思い始めた頃に、人と人の縁で出会ったのが NCR。そして実際にNCRで焙煎体験をさせて頂いた時に、コレなら我が家でも出来ると確信した事が大きかったのです。そしてもうひとつ。NCRでロースタリーやカフェを営む方もいると聞いて、私のこれからの生き方 のきっかけになるのかもしれないと思ったのです。大袈裟に言えば、人生は知り得たものでしか選択する事が出来ないのものです。私達は知り得た選択肢の中で価値観で最良の焙煎機を購入するに至りました。』

焙煎の準備を整える。グリス、非接触型の温度計を準備。


M:
『自家用に焙煎していた手編み焙煎からのステップアップだったのですね。
山帰りに一緒に焙煎してコーヒーを淹れて頂いたこと、よく覚えています。お手製の美味しいパウンドケーキも頂きました。晴れた日の幸せな時間でしたね。
使用環境と焙煎時の工夫などもお聞きしてもよろしいですか?』

T:
『私達が暮らしているのは、海が近く潮風の薫る大通りから、1本奥の路地の住宅街に建つ築30年の賃貸アパート。そのアパートのキッチンでコーヒーの焙煎をしています。周囲の住宅とは密接しておらず、換気扇は道路側に出ています、住宅街の一室で多量の焙煎をする方は、焙煎の匂いや排煙の行方が気になる方もいるかと思いますが、私の焙煎量や使用頻度では、現時点でお叱りを受けた事は有りません。

頻度は、月に1回、500gの生豆を2~3回と産地別で焙煎しています。NCRの設置場所は 排煙をスムーズにする為、レンジフードの直下に置く必要があります。ガスコンロの五徳を外し、2口あるコンロの間にNCRを設置。以前レンジフードの範囲外で焙煎した時に、屋内に煙が充満し火災報知器が鳴り慌てた経験から、レンジフードの直下にNCRを設置する事が良いと気付きました。

NCRを載せているガスコンロの天板が琺瑯になっており、NCRの鋳物コンロの脚が滑りやすいので、この設置方法は決して安全ではなく、他にお勧め出来ませ ん。安全策を取るとすれば、鋳物コンロは耐熱性の滑り止めをするなり、改善が必要と考えています。ガスコンロがNCRの荷重で変形するのではないかと心配が有りましたが、現時点では問題無く使用できています。

ガスは都市ガスです。
ホームセンターで都市ガス用ソフトコードとゴム管用ソケットを購入し、コンセントガス栓に取り付けられる様にしています。取り外しも簡単です。

焙煎機と鋳物コンロは3箇所のネジで取り付けてあり、バーナーの火力調整ツマミ位置や、焙煎機のハンドル位置を自分が作業しやすい様に設定してから、焙煎機と鋳物コンロを固定するネジを締めました。

NCRの予熱に非接触式の温度計を利用しています。
これはマスミツさん推奨で、大まかな計測にはなりますが、目安としてロースター内部の温度値を知りたい場合に便利です。

 煎り止めは、豆の排出する口径と、ドラムの蓄熱性を考え、手網焙煎の時の様な瞬時の冷却にはならない分、コンロの火を止め、ドラムを持ち上げ冷却装置まで移 動し、冷却する為のザルや篩に豆を出し切るまでの時間を考慮して煎り止めをして います。』

焙煎したての豆を冷却。

 

T:
『焙煎豆の冷却は、マスミツさんの焙煎小屋の装置を参考に、樹脂製ペール缶に穴を開け、ブロワー機能付きバキュームクリーナーの吸口を繋げた簡単な物です。扇風機等で風を当て冷却するより、短時間で冷却する事ができ、ブロワー側にホースを取り付ければ屋外に排煙もスムーズです。バキュームクリーナーは本体が大きい上にバキューム音も大きいのが難点、一般的な家庭用小型掃除機でも代用出来るかと思いますが、吸引した煙の熱で掃除機が故障しやすいといった例もあり、先例に 倣いパワフルな業務用ブロワー機能付きバキュームクリーナーを採用しました。

メンテナンスについてお話しします。焙煎後はNCRが高温の為、その場で温度が下がるまで置いておきます。そして、火傷をしない程度の熱いうちに、キッチンペーパーに食用油を含ませ、ドラムなど錆止めに油を塗り馴染ませています。NCRが完全に冷えてからドラムを外し、ドラムの蓋の3箇所のビスを外し、蓋を開け、内部を手箒等でチャフを取り除き清掃します。ドラム内の羽根と蓋側の内壁に豆が挟まっている事が多いので注意しています。ドラム内部は焙煎豆の油分が付着する為、錆止めの油は塗りません。蓋を戻しハンドルの軸がドラムの中心に来る様に3箇所のビスを仮留めし、蓋の位置をドラ ムの外壁から蓋の出っ張り具合を3箇所程度、バランス良く微調整しながら3箇所 のビスを本締めします。NCRの回転支部にドラムの回転をスムーズにする為、食品機械用グリースを塗っていますが、放置すると固着する為、使用後はなるべく拭き取る様にしています。』


M:
『ご自宅でのキッチンでの焙煎にはやはり沢山の工夫が詰まっていますね。一般住宅のキッチンで使えるか、といったお問い合わせが増えていますので、設置方法や冷却方法など皆さんにも参考にして頂けると思います。
NCRを使い始めて何か変化などありますか?』

T:
『NCRが生まれた長閑な山村の暮らしは、自然と対峙するのではなく受容する。 自然を日々観察する事で得る。疑問や発想や失敗を生活の糧にして地域と関わる。 人間の暮らしとは本来そうだったのではないだろうか。

そう、改めて感じさせられるマスミツさんの暮らし中で見つけた黒鉄の焙煎機。
私はその造形を目にする度にその背景を思い起こし考えさせてくれます。このコーヒー豆を煎る調理器具はアートであり、そこに宿る世界観は、量産型の焙煎機 に無いものを私に与えてくれるのです。 鉄製の重厚さを感じ、木製のハンドルを優しく握りドラムを回し、ドラムの熱を 感じ、豆の音に耳を欹てる。カッシャンカッシャンカッシャンと、小気味良い音を聞き、時間の流れ、豆の色と香り、私を包む空気、全ての変化を五感で感じ焙煎に集中している。効率、利便、完全性、情報過多で人間までもが機械的な生活から脱して、私はコーヒー豆を煎る人間になれる。他と比べ浮き沈みする事が暮らしになって終わぬよう、私なりに私が出来る事をやって行こう。 NCRと出会って得た私の変化だったのではないかと思います。
手網焙煎から始まった焙煎が、NCRと出会った事で焙煎量が増え、美味しいと言ってくれる友人知人へのお裾分けの量も増え、そこから次に何が出来るのかを考え行動に移す。 これは現状の生活とのバランスを保ちながら、少しづつの小さな変化かもしれないですが、私にとって、暮らしを大きく進展させる余地と希望をもたらした様に感じます。

M:
『アツシさんの焙煎した珈琲、それからめぐみさんのつくるパンやお菓子。お聞きしているだけで何か始まりそう…とこちらまで心が弾みます。めぐみさんはいかがでしょうか。』

T(めぐみさん):
『旦那さんが焙煎したコーヒー豆を挽いてコーヒーを淹れる。自分で焼いた食パンをトーストして食べる。私は、この習慣が一日の始まりとなっています。「コーヒー」と「パン」は、生活の一部にあります。 私達はコーヒーやパン、お菓子作りの趣味が講じて、将来はカフェを開きたいと 思う様になりました。そんな時にNCRと出会い、その思いが更に強くなり、現実感も出てきました。 ある程度の量を好きな時に、手軽に煎れられることが、私達の暮らしの中で丁度良い所に収まっています。 NCRを使う前は、手網焙煎で少量ずつでしたので、自分達の分とコーヒー好きの方への少しのお裾分けくらいの量でした。しかし、焙煎量も増えたことにより、 多くの方へ飲んでもらう機会ができ、「美味しかった」という言葉をいただき、私達にとって、自分達の作ったもので喜んでもらえる事が幸せを感じる瞬間でした。また、焙煎が身近に出来る人がいる事も知ってもらえたので、周りの方にとっても何かの キッカケに繋がるといいなぁと思っています。 最近は、コー ヒーとお菓子のセットを作って、私達のお世話になっている方へのお礼やお祝いとして渡しました。また、大切な方への贈り物にしたいというリクエストにも応えられるように、ラッピングも気にするようになりました。
私達の日常からのお裾分けを喜んで頂くこと、それがまた私達の喜びとなります。とても素敵な循環を感じる事ができています』

 

私達のお世話になっている方へのお礼やお祝いとして作ったギフトBOX

 

M:
『少しずつ広がって行く様子伺えて嬉しいです。
これからのお話を伺っても良いですか?活動名は’TRIP COFFEE’になったのですね。』

T:
『’TRIP COFFEE’は私に焙煎を教えてくれた友人がつけてくれました。旅先で淹れたコーヒー、旅先での景色や出会った人々。香りで旅をするような癒やしのコーヒーを、そんな思いと名字にある’鳥(TORI)’にもかけて、’TRIP COFFEE’と名付けました。

私達は、これまでと同様に自宅や山で楽しむコーヒー、旅先で淹れるコーヒーの為に焙煎を続けます。コーヒーに合うパンやお菓子も作ります。
そして日常や旅先で得た喜びや幸せを少しだけお裾分けしたい。そんな想いで旅先の美しい景色の写真を同封したギフトボックスを、また友人知人に送りたいと思います。ちょっとした時間にコーヒーを淹れる心のゆとりと、香りを届けたい、忙しくても頭の中だけでも旅をしてもらおう、そう思うからです。

 私達の手で作り出したものから、周りの人達を幸せにできる事がとても嬉しく感 じます。
これからも、この想いを糧にNCRでコーヒーの焙煎、コーヒーに合うパン やお菓子を作り続けて、私達の生活の中心にしていきたい。
そして、私達の暮らしから自然や季節を感じられる空間を創り、色々な方とその心地よさを共有できる、その事を大きな喜びとして続けていきたいと思います。

めぐみさんは今日もケーキを焼いています。

現段階では、私達それぞれに別の仕事があり、週末の活動だけでやっていますが、 もっと多くの人に幸せを届けたい気持ちは高まるばかりです。まだ、私達の周りの 人とのやり取りが主ですが、そこから得られる繋がりを大切にし、少しずつ広がりや販売の機会を作れたら良いと思っています。

今は、NCRと共に’丁度良い暮らし’の摸索中です。型にはめられた思い込みの幸福論 が崩壊し、多数が正とは誰も証明できない世界です。生き方に多様性があって然るべき、と考えた人々は、ならば好きに生きようとするでしょう。世界を一つにしたいと考える人々は、それを社会の分裂と表現した、情報の撹乱、不安を煽り不安解 消策を誑し込む社会には正直暗澹とします。社会が分裂しようが幸せとは人それぞ れの生き様だと思います。私達は眼に見える繋がりや、出会ったきっかけやチャンス、其れらの享受を返礼しながら活動していきたいです。

M:
『山に登ること、旅をすることは自分らしい道を探すことにも繋がるのでしょうか。
新しいチャレンジ、歩きながら沢山のことを感じて、よく考え、大いに楽しみながら進む。
そんなお二人が素敵だなと思いました。これからのTRIP COFFEEのご活動ご活躍楽しみにしています。
有難うございました。』

旅先での記念写真。