PEOPLE & LIFE

自作キッチンカーから始まり、里山に根を下ろす百番珈琲。

百番珈琲(山梨県/北杜市)

セルフビルドの移動式キッチンカーは津金という里山に到着。
‘里山の喫茶店’、新・百番珈琲はここで根を下ろし、
そして広げたいと思います。

2023.05.07

‘里山キッチンカーを経て、津金という里山に「百番珈琲」をオープンしたばかりの百木(ももき)さん。
今回お伝えしたいのは、セルフビルドの素晴らしい木製キッチンカーでの活動から、里山という場所にお店をオープンするまで、の道のり。そして新’百番珈琲’のこれからをご紹介したいと思います。

すでに本オープンを迎えていますが、お話を伺ったのは、まだプレオープンの時。「実験的に週3日ほど不定期で」のオープン時でした。興味深く、魅力的なお話をぜひご覧ください。

マスミツは百木さんのことを百(もも)ちゃんと呼んでいるので、以下そのように。
(M:マスミツ  百:百ちゃん / NCR: Neji Coffee Roaster / 取材日:2023年2月 )


M:
珈琲焙煎をはじめたきっかけを教えて頂けますか?

百:
もともと趣味でやっていたハンドドリップコーヒーを生業にし始め、そこから少しずつコーヒーの勉強をはじめました。焙煎を始めたきっかけはシンプルに「もっとコーヒーのことを勉強したくなったから」です。
最初は他社のコーヒー店の豆を使用させて頂いていたのですが、自分自身で焙煎をすることでより深くコーヒーへの理解を深める事ができると思いました。もともとなんでも自分で作って実践するいわゆる「クラフトマン」的な傾向が強いので、焙煎を始めるのも時間の問題だったとは思います。

最初に使っていた焙煎機は生豆で250gしか投入できない本当に小さなものでした。
使い始めたのはいいものの、自分の狙い通りの焙煎が思うようにできないことや、そもそも焙煎できる量が少なすぎて話にならなかったので別の焙煎機を探そうと思っていました。

M:
百ちゃんは、罠猟、料理やお菓子、色んなことがとても細やかで丁寧な印象です。自分でなんでもチャレンジするし、その作業の一つ一つが本当に熱心で丁寧。その様々なトピックの中に’珈琲’もあったのですね。

百:
2019年11月、白州のぴらたファームで年に一度開催されるイベント「ぴたらファーム収穫祭」で百番珈琲として出店している時にけんたろうさん(マスミツのこと)とは初めてお会いしました。その前から焙煎機を作っている作家さんがいるという情報は知人から聞いていたので、後日落ち着いたタイミングで焙煎機の実物を拝見しに伺いました。

そこからけんたろうさんとのお付き合いも、焙煎機との生活も始まったわけです。2020年の春だったかな?そこからより深いコーヒー沼に突入していくことになりました。

M:
ぴたらファームで初めて会った時には、すでに初代のキッチンカーで珈琲を淹れていましたよね。

どうしてキッチンカーを始めようと思ったのでしょうか?

百:
2019年6月からスタートしたキッチンカー「百番珈琲」ですが、始めた理由は主に二つありました。

ひとつは2011年から2021年までの10年間所属していた舞踏グループ山海塾との兼ね合いです。山海塾では世界各地での公演に出演し、僕自身23ヵ国もの国に行く経験をさせて頂きました。仕事の中心が海外に行って劇場で公演をする興行(ツアー)だったので、日本でのオフの期間にどう生活するかを26歳(2015年)くらいから考えるようになっていました。

山海塾の舞台、パリの劇場にて。

最初の移住先は瀬戸内海に浮かぶ香川県の「向島」という当時島民14人のとても小さな島でした。向島はアートで有名な直島のすぐ隣だったので、向島にも観光のお客さまを中心とした「向島集会所(現・休日)」というゲストハウスが1軒だけありそこで約1年間そこで住み込みで働かせて頂きました。島のゲストハウスといっても向島にはフェリーなどの公共の交通手段がありません。島民全員が船舶免許を持ちスーパーに行くのもゴミ捨てをするのも自前の船を操縦して生活する場所でした。当時スタッフはオーナーと僕のふたり。オーナーの「よしおさん」にはとてもお世話になりました。観光需要のある立地条件での田舎暮らしという少し特殊な生活と、山海塾の活動、いわゆる2拠点生活がその時から始まりました。

その後「もっと本格的な田舎暮らしがしたい」と思い、住みたい場所を探すためバイクで日本を旅し、その時間の中で「山梨」と出会いました。直感で「北杜市がいい」と思い、2017年12月から北杜市での家探しが始まりました。
そのまま2018年の9月まで家は見つからなかったわけですが、その間に「ぴたらファーム」でお世話になったり、住み込みで茅葺き屋根の修繕の仕事をしたり、増富温泉郷での居候生活などでたくさんの仲間たちと出会いました。家探しの時間はとても充実したものだったと今では思います。もちろんその間も山海塾の仕事と行ったり来たりという感じです。
そして見つかった家はマスミツ家から更に10分ほど北上したところにある集落にありました。元々は狩猟や畑などで自給自足の生活を実践してみようと思い山梨に移住を決めたので、そこでは目標通りたくさんの経験を達成することが出来たと思います。

 

仲間たちにはいつも感謝です。(ぴたらファームにて)

 

M:
なんとバラエティーに富んだ経験!

百:
少し生活が落ち着いてきたところで「2拠点生活をしながら山梨で自分が出来る仕事はなんだろう?」という事を考え始めました。田舎暮らしで東京での生活ほどお金がかからないとは言え、ダンサーとしての活動でもらうお金だけでは現実的に不安な状況でした。

「自分のスキルを活かしながらどこかに所属するでもなく、自由気ままに趣味を活かせる仕事」
というそんな身勝手な条件で考え出したのが、「ハンドドリップコーヒーの自作キッチンカー」でした。

百番珈琲2号製作中。

劇場仕事の関係で大道具さんとして大工仕事もしていたので、当時からなんとなくDIYレベルで木材の加工などはできました。板金のキッチンカーは値段が高いしあまり好みの外観ではなかったので、「自分で作れそうだから作っちゃえ!」と思いできたのが初代百番珈琲でした。

コーヒーに関しては向島で働いていた時にオーナーのよしおさんに色々教えて頂いたのがきっかけで、少しずつ趣味としてこだわるようになりました。

長くなりましたが、そんな流れからキッチンカーは始まりました。(笑)

百番珈琲1号と記念写真。

 

2号機はコーヒを淹れる動作確認をしながら、より丁寧に。

 

百番珈琲2号。八ヶ岳を背景に。

 

丁寧にドリップする百木さん(百番珈琲2号)。

 

M:
百ちゃんの大工の腕前は、Neji Coffee Roasterの焙煎小屋の屋根葺き作業(ガルバリウム鋼板)を手伝ってもらった時に驚きの捌き様を見せて頂きました。床に道具を全く置かない仕事人。ちゃんと大工の仕事も身につけたんだなあ、と羨ましくなりました。

「自分のスキルを活かしながらどこかに所属するでもなく、自由気ままに趣味を活かせる仕事」

これが、大きなキーワードですね。今の時代に沢山の皆さんが模索したいと思っている方が多いのではないでしょうか。実現に向かってのキッチンカー活動。その活動を進めている中で、焙煎機を選んだくれたのですね。

その理由をお聞きしてもよいですか?

百:
理由のひとつはまず直感です。

出会いやタイミングを重視して人生を歩んできた身なので、この焙煎機を使うしかない!と実物を見てすぐに思いました。当時住んでいた家から車で10分もかからない場所でカッコイイ焙煎機を作ってる人がいるなら、もう迷う理由はあまりありませんでした。

素材が「鉄」で「手回し」というアナログ感強めなことも理由です。昔から鉄の道具が好きで、ちゃんと手入れすれば一生ものだし、何より壊れることが限りなく少ないですよね。いざという時はメンテナンスしてくれる作家さん本人もすぐ近くにいますし。(笑)

愛着を持って使い続けるには納得のいく理由がたくさんありすぎました。

 

M:
直感!嬉しいです!

言葉に表せない衝動的な感覚ってありますよね。僕もNCR1号機を作った時は、やるしかない!進むしかない!そんな思いでした。実際にNCRを使ってみていかがでしたか?

百:

焙煎ビギナーだった自分は「Neji Coffee Roaster」を使いながら焙煎について勉強していきました。そんなビギナーから現在(今も全然ビギナーですが…)までの焙煎機を使用している感想なので、僕自身が他の焙煎機を使ったことがないので参考にはしづらいかもしれませんが、、、

焙煎を始めたばかりの頃は深煎りをメインにやってました。
深煎りのコーヒーが好きで「大坊珈琲」さんの本などを参考に焙煎の火入れを真似するところから始めました。コクや深煎りならではの甘みに魅力を感じていたからです。焙煎ビギナーではありましたが、深煎りに関しては今思い出してもある程度は上手くできていた気がします。

現在は深煎りで約15分で冷却器に出す火入れにしていますが、当時は25分くらいかけてじっくり焙煎していました。火入れに関しては考えるところがあり少しずつ時間が短くなってます。それから少しずつ「中煎り」や「浅煎り」にも挑戦していきました。今では深煎りから浅煎り、ブレンドもシングルも、厳選しているけど幅広く取り扱っています。

「NCR」での焙煎は完全にマニュアルな作業なため考慮する点がかなり多いと思います。火加減、回す速度、投入する豆の量、暖気、外気温、蒸らしの時間などなど、あげればいくらでもあります。そんなアナログすぎるところも含めて、個人的にはとても使いやすい焙煎機だと思います。

M:
有難うございます。本当に沢山使って頂いていて、嬉しいです。その活躍の場もどんどん広がっていますね。今回は‘里山の喫茶店‘として改めて百番珈琲をご夫婦でオープン。(おめでとうございます!!)
お二人で津金、という場所に根を下ろしました。
津金はここ(NCR 焙煎小屋)からも近くの里山、古くからの暮らしの営みが残っている、自然豊かなところです。
一方で、この街から遠く離れた土地でこれまでにない新しいチャレンジ!と思いながら応援していました。

クラウドファンディングに挑戦したことなど経緯をお伺いしても良いでしょうか。

百:
お祝いのお言葉ありがとうございます!

「里山の喫茶店プロジェクト」と題してクラウドファンディングに挑戦したのは2022年9月5日から10月4日までの約1か月間でした。百番珈琲を店舗にする計画自体は2021年の8月ごろからありましたが、補助金を使って資金調達をしていたため結果的に長期的な計画になりました。実際に店舗の改修工事が始まったのは2022年6月。その時点でクラファンに挑戦する事は夫婦の間で既に決めていました。

改修工事に掛かる資金は補助金でなんとかなりましたが、家具や備品などまだまだ店舗を始めるには掛かるお金がたくさんあり、クラファン挑戦は初めての事でしたが自分で調べたり経験した事のある友人からアドバイスをいただいたりしながら少しずつ準備を進めました。

思い描いていた百番珈琲。

たくさんの方のご協力のおかげでとても熱いプロジェクトページが完成して、事前告知などもスケジュール通りうまく進みついに9月5日19時にクラファン挑戦スタート!目標金額に設定していた150万円はなんとわずか50時間で達成。感動している暇がないほどの速さで支援金額が増えていき、夫婦二人でお礼のメッセージなどを送るのでてんやわんやしていたのを覚えています。それから最終日の10月4日までで目標金額の倍以上のご支援を頂くことができました。ご支援いただいた皆さま本当にありがとうございました。

このクラファンでは「資金調達」が大きな目標ではありましたが、それ以上に大きな経験や人との繋がりを得ることができました。想像以上に多方面で注目を集めたので店舗をオープンする宣伝になったことはもちろん、友人や知人、家族、そしてお客様からの応援というのはとても励みになりました。精神的にも肉体的に本当に大変な挑戦でしたがとてもいい経験になりました。そのおかげもあり、資金面に余裕を持って準備を進めることができました。結果的にプレオープンの時期を早めることができ、十分に体制を整えて3月9日(お話を伺ったのは2月末)の本オープンを迎えられそうです。

ようやくたどり着いた新しい百番珈琲の景色。

 

焙煎室も新しく。たくさんの自然光が入る居心地の良い場所に。

 

まだオープン準備中ながら地域のイベントに参加。
津金に来て良かったと思う。

M:
クラウドファンディングの大成功後のインスタグラムに溢れて出ていた感謝。本当に気持ちが伝わる印象的な言葉でした。お話を伺っていると、これまでもそうですが、沢山の地域の人たち仲間たちとの繋がりやそこから得た経験が本当に大きいのですね。

三ヶ月のプレオープンを経て、いよいよ本オープンです。百番珈琲のこれからをどのようにイメージしていますか?

百:
クラファン挑戦の際につけた「里山の喫茶店」というタイトルですが、これは結構気に入っています。

あの時に作ったプロジェクト内容で嘘や虚勢は一切なく、かなり純粋な気持ちで取り組んだのでこのタイトルが自分のイメージを伝えるのに最適なものだったと思います。

「津金」という地域で珈琲屋を営むというのは、人によっては「挑戦」と捉える人も実際に多いようですが僕ら夫婦は全然そんな風には思いませんでした。

八ヶ岳の南麓で陽当たりや土地も良く、歴史ある集落で代々大切にされてきた文化がたくさんあり、周辺地域には観光資源もたくさんあります。他の地方都市同様に少子高齢化の傾向は強いものの、可能性を持ってこれから歩んでいく場所としてはこれ以上ない条件だと思っています。

12月から始めた冬の長期プレオープンの間もたくさんのお客様が店舗に来てくださいました。
お店を始めてから今までイメージでしかなかった事が確かなものに変わりつつあり、またさらに可能性を持つことが今はできています。

この「津金」という地域で様々な世代の人々が集う里山の喫茶店にしたい。

やりながらどんな風になっていくか、あまりゴールを決めずに僕自身どんな未来を作っていけるか楽しみにしています。

 

M:

新しく始まった里山での百番珈琲、プレオープンに伺った時、沢山の色んな世代の方々が足を運ぶのを見て、地域の中に新しい風が吹いているのを感じました。コーヒーはもちろん、津金のりんごを丸ごと絞ったフレッシュジュースやタルトタタン、地域ならではのメニュー、どれも素晴らしく美味しかった。

そして、若い人から家族連れ、親子、いろんな年齢層の皆さんが、ゆっくり楽しんでいける百番珈琲は、とても居心地が良かったです。

これから新しいイメージが里山ならではの暮らしにも広がっていきそうですね。

百:
この1~2年は引っ越しや店舗の開店準備で本当に大変でした。
現在ではかなり生活も落ち着き始めて、少しづつですが以前やっていた燻製やDIYなどの趣味を再開できています。百番珈琲周辺のフィールド開拓(自分の山)なども近隣の方々のお話を聞きながら少しづつ始めました。自分の山でまたいつか狩猟も再開したいと思っています。
移住する前に憧れていた「田舎暮らし」を、やっと腰を据えて始める準備が整ってきたかな?と最近は感じ始めています。「津金」という地域で家族や友人たちと共に、自分らしい「里山暮らし」をしていきたいと思っています。

 

百番珈琲ではスイーツを担当する真帆さんと一緒に。

 

百番珈琲、末長くよろしくお願い致します。

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百番珈琲
【住所】 山梨県北杜市須玉町上津金782
【定休日】 火曜・水曜
【営業時間】10:00-17:00.
【HP】https://hyakubancoffee.com
【インスタグラム】@hyakubancoffee
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