PEOPLE & LIFE

’感じる’ ことを ’丁寧に’ 伝えたい、
mame mura coffee。

mame mura coffee (長野県/富士見町)

イベント出店から珈琲の仕事へ。
そして、古い商店街の中に'場'を構えました。
'感じてみる'ということ、皆さんに’伝えて’いきたいと思います。

2023.09.16

まだイベント出店をしていた頃、もう随分前からNCRを使っていただいているmame mura coffeeの田村さん。
富士見町(長野)の商店街にお店を構えた田村さんにお店をつくるまでの経緯や普段からの心がけ、それからワークショップのことについて等、お話を伺いました。

(T: mame mura coffee 田村さん/ M:マスミツ/ 取材日:2023年8月 )


M:
まずは、珈琲に興味を持ったきっかけを教えて頂けますか?
影響を受けたお店などありましたら教えてください。

T:
珈琲に興味をもったは20代後半に働いていた「森のカフェレストラン灯鳥(ぽとり)」でした。(北杜市白州町・現在は閉店)
初めて美味しい珈琲に出会ったのも灯鳥ですが、初めてドリップコーヒーを淹れたのも灯鳥でした。それからコーヒーに興味が持ち色々なお店で飲むようになりました。
そこは珈琲のみならず、オーガニックの野菜やお肉やお魚を使わない料理、ベルギービールやグラッパ、ドイツパンなどなど、知らない世界ばかりで、本当に多くの刺激的な経験をさせてもらいました。カフェレストランではありましたが、食材や雑貨、衣類などの販売もしていたので、仕入れやお店のレイアウトにも携われた事は、店舗を作る時にとても大きな影響がありました。

T:
そしてイベント出店を初めて体験したのも灯鳥でした。そこには農家さん、雑貨屋さん、パン屋さん、ジャム屋さんなどなど、みんな個人で経営している魅力的な出店者の方ばかりでした。
それまでの私は「仕事」に対して、いや仕事以外も、とても狭い範囲しか見えていなかったのだな、と実感しました。大学に行って会社に入社して働く。誰かにそうしろと言われたわけでもなく、自分がそうしたいと思ったわけでもなく、やりたいこともないしそうするしかない、とどこかで思い込んでいました。

でも灯鳥で働くうちに、個人で色々やっている大人たちを見て、こういう働き方もあるんだ!という事にも気づけました。何よりみんなすごく楽しそうに、生き生きとしているように映りました。会社に勤める事が悪いわけではないし、個人で何かをやる事が正解というわけでもないけど、色々な事を「知る」という事は自分を楽にしてくれるような気がしました。その後の仕事やコーヒーの出店を始められたのも、灯鳥で本当にたくさんの人に出会い、様々な経験をさせて頂けた事がかなり大きく影響していると思います。
焙煎に興味をもったのも同じ時期で、一緒に働いていた方が個人で珈琲の焙煎をしていて、「個人で、小さな道具で焙煎って出来るんだな」と思ったのはとても大きい出来事でした。

M:
灯鳥での経験は20代の田村さんには、飲食運営だけでなく、働き方という点からも刺激的な経験だったのですね。
コーヒーを仕事として意識したのはいつ頃でしょうか?

T:
焙煎を始めてしばらくは自分で飲んだり、周りの知人に配って飲んでもらったりしていたのですが、当然その頃は仕事として出来るとは思っていませんでした。それをしばらく続けていたら、「うちでワークショップやってよ」「こんなイベントあるけど出てみる?」と声をかけてもらえるようになってきて、そこから少しづつ仕事としての珈琲や焙煎を意識していった気がします。

M:
焙煎機レンタル希望のご連絡を頂いて、貸し出しの際こちらまで足を運んで頂きました。もう随分前になりますが、あの時が初めましてでしたね。落ち着いた真面目で実直な方、そんな印象でした。

初めて使っていただいた感想、また実際に使って頂くようになって使用した感じはいかがだったでしょう?ユニオン社の手回し焙煎機からのステップアップ機として検討してくださったのですよね。

T:
はい。初めてお会いしたのはレンタルの受け取りだったと思います。
NICE TIME CAFE(山梨県北杜市)の中村さんから「北杜市で焙煎機を作ってる人がいるよ」と教えて頂いて、増満さんの事を知り、Neji coffee roasterの事を知りました。その後、中村さんから紹介して頂き、レンタルする流れになりました。

使ってみた時の感想は、初めて使う焙煎機とは思えないくらいスムーズに馴染んだのを覚えています。レンタルする前は勝手なイメージで、深煎りの焙煎に大きく効果がありそうだなと思っていたのですが、浅めの焙煎が自分のイメージに合わせやすくなりました。今まで浅めの焙煎がなかなか決まらないと感じていた自分にとっては、とても大きい変化でした。これまでの焙煎からさらに表現の可能性の幅を広げてもらえました。

昔の喫茶店のような店内。

 

M:
そう言っていただけて本当に嬉しいです。
催事への出店形態からお店をつくることにしたのはどのような理由だったのかお聞きしても良いですか?また、‘場’を持つということで、仕事や暮らしにどんな変化があったでしょうか。
最近若い人も集まってくる富士見町(長野県)について、また町の中でのコミュニケーションについても伺ってみたいです。

T:
出店を続けていると嬉しい事に、美味しいと言って下さるお客様がいて、「どこに行けば買えますか?」と聞かれる事もありました。その時にここで買えます!と言える場所が出来たらなと思うようになりました。ネットショップでも良かったのかもしれませんが、出来れば直接お客様とやりとりできる場所がいいなと思って物件を探し始め、時間はかかりましたが、ご縁があって今の場所を貸していただける事になりました。

場を持つ前は、知り合いの飲食店で働きながら週末は珈琲の出店、という形で活動していました。その頃は飲食の仕事、珈琲の仕事、暮らし、がそれぞれ別の流れにあるという感覚でした。お店を構えてからはそれが一本の大きな川のようになった気がしています。この場所を中心に仕事も暮らしもあるというような。とても感覚的な話になってしまうのですが。

焙煎後の冷却はお店の裏で。目の前に電車が通る。

ここの場(店鋪)が出来てからは本当にたくさんの方が訪ねてきてくださるようになりました。
ありがたい事に、富士見は駅から歩ける範囲だけでも個性豊かなお店がたくさんあるので、うちのお店を知らない方もふらっと寄って下さったりします。そしてお客様だけではなく、お店同士でも行ったり来たりがある事がとても嬉しいです。
ご近所のお店の方々が珈琲を飲みに来てくれたり、2軒お隣まではマイカップを預かってお届けしたりもしています。そんな行き来のなかから、一緒にイベントをやったり、場所を借りてイベントをしたり。新しい発想や良い刺激をもらえていますし、そういう事を話したり、相談できる方達が多いのはとても心強いです。

お店の外観。現在、両隣は古書店と絵本のアトリエ。
通りも次第に賑やかに。

M:
歩ける範囲での豊かなコミュニケーション、良いですね。
一方で、イベントなどで会う遠くとも長く付き合っていける間柄も大事にしたいですよね。他にも色んな縁で、コーヒー活動またそれ以外にも様々な企画を立てていますね。

T:
企画に関してはもう本当に周りの方のおかげでできている事ばかりです!
「読書喫茶 豆村円盤」は明野町にあるホタル食堂のお二人と一緒にやらせて頂いているのですが、店舗がない時にはホタル食堂(北杜市明野町)で定期的に開催させて頂いていました。店舗が出来てからは逆に富士見まで出張してもらって…。
「サロンマメムラ(出張ヘアサロン)」もイベントでたまたま一緒になって、それから髪の毛を切ってもらうようになったyonseeのりょうくんが、「お店ができたら出張で行きますよ」と言って松本から月一できてくれているから開催できています。面白がってくださる皆様がいてこそできているので、本当に”ありがとうございます”と思うばかりです。

2019年、増満企画の展示会にて焙煎デモンストレーション。 沢山のギャラリーが次々に質問する。

M:
最近では以前からやっていたワークショップも再開しました。僕もブレンドをつくる回に参加させていただきました。(下写真)
新しい自分の好みや考えていることや、またこのような機会だからこそ感じることがありました。そこに田村さんの思いが垣間見えて、とても面白かった。身近なことから新しい楽しみを知るって好いですね。

マメムラ流ワークショップでの’伝える’、それから’分かち合う’ことの意義ってなんでしょう?

T:
増満さんがおっしゃる通り、珈琲のみに限らず、多くのジャンルでそうだと思うのですが、興味がある事、好きな事について知るのってすごく楽しいと思うんです。それは書籍で読んだり、動画を見て知る事もとても楽しいのですが、個人的には実際に自分の手や身体をつかって、五感で体験して頂く事がいいなと感じています。
私自身がそうだったのですが、書籍や動画で焙煎を調べている時より、実際にやった時の方が楽しいと感じたし、たくさんの発見がありました。もちろん書籍や動画を否定しているわけではなくて、また違う学びがあって、それぞれの人によって合う合わないがあったり、必要な時期が違ったりしているだけなので、どちらも大切だと思っています。

そんな自分の経験から”体験してみる”というテーマを大切にワークショップをやっているのだと思います。こちらは体験できる場を用意して、そしてその体験から各々が何かを持ち帰って頂く。それは参加して頂く方もそうですし、私自身も気づきや発見がたくさんあるので、それが結果的に’分かち合う’事になっていたらとても嬉しいです。
これからは店鋪の通常営業をしつつ、もっとワークショップなどの体験できる活動を増やしていけたらと思っています。ワークショップというとなんとなく”講師”と”受講者”のような距離のある関係性が出来てしまう気がするので、そういう垣根もない形をやってみたい気持ちもあります。まだまだ構想段階ですが、テーマを決めてそれについてみんなでああだこうだ言ったりする実験室的な事は出来たらなと思っています。
mame mura coffee labなんて、いつ実現することやら。。(笑)

事前に選んで頂いた4種の豆からバランスを考えてブレンド。

 

まずはそれぞれの豆の特徴を感じることからスタート。

 

できたブレンドに自分で名前をつける。
迷った挙句、記念の日を名前につけた。

M
伝えるワークショップ、とても魅力的です。僕的には次は以前やられていた炭火手編み珈琲焙煎やってみたいです。(笑)

コーヒーを淹れる、ということについてもお聞きしても良いでしょうか。
一度僕の企画に参加して下さった時(NCRでの焙煎と珈琲提供)、手の所作がとても綺麗で丁寧だなー、と強い印象を持ちました。コーヒーを淹れる時にに心がけていることありますか?

T
結局とても短い期間にはなってしまいましたが、茶道に興味を持ち、以前お稽古に行かせて頂いていたことがありました。本当に短い期間なので何も知らないのに等しいのですが、ひとつひとつの所作や心構え、季節を大切にすることや、見立てる、おもてなしの心などとても多くの影響を受けました。

M:
なるほど。
’一つ一つ大事にすること‘から繋がる’丁寧’なんですね。

T:
生け花のワークショップを受けた時、講師の方が話してくれた印象的な出来事がありました。私は花器に水を差す時に、水道の蛇口から直接入れたくなってしまいます。そのほうが楽ですし、早い。しかし先生は蛇口から水差しに移し、そこから静かに水を注いでいました。
生け花の世界の事も深くはわかりません。ですが、元々は神様にお供えするもの。お花を探すとき、切るとき、水を差すとき、生けるとき、それぞれに手間をかけることくらいしかできないから(もっと違う言い回しだったかもしれません)と仰っていました。そこには自分以外の存在があって、ひとつひとつの所作に思いがこもっている、そんな印象でした。花器に水を差すという行為ですが、前者(私)と後者では全く別物だと感じました。
うまく説明できないですが、丁寧とはそういうことなのかなと思います。

M
形に心をいれる’所作’、 田村さんの’丁寧’、合点がいきました。そんな田村さんにNCRを使って頂けて嬉しいです。

M:
ところで、‘本‘、好きですか?
僕は本棚を見るのが好きなんです。この一杯のコーヒーに繋がっている店主の世界の縮図のような気がしていて。特にmame mura coffeeの本棚は、食、哲学、絵本、知識、暮らしなど、いろんな文化を感じることができて見ているだけで楽しい。

T:
本、好きです!
お店を作る前のイメージは、私がずっと好きだった昔の’喫茶店’でした。カウンターがあって本があって、一人でもゆっくり過ごせるような。いいですよね、喫茶店って。

M:
では、最後にお店の本棚からおすすめの本を教えていただけますか?

T:
そうですね…。
それでは3冊ご紹介いたしますね。

■シッダールタ ヘッセ
これはもう個人的バイブルです。最初はとても読みにくく、なかなか進まなかったのですが、なぜか読むのをやめずにいられる本でした。最後の章は全部書き写したいくらい自分にとって大切だと感じる言葉がたくさんありました。なかでも「知識は伝えることができるが、知恵は伝えることができない。」ここから続く部分はとても深い部分に響いた気がします。

■モカに始まり 森光宗男
珈琲に興味を持ち始めた頃に出会った本。
まだ珈琲について何も知らない状態で、装丁に惹かれて購入しました。内容はコーヒーの原風景やコラム、そして実際に森光氏がイエメンの産地を巡った旅の事が書いてあり、初めて知ることばかりでワクワクしながら読みました。
コーヒー以外にも音楽や料理、花など色々な話題がでてくるので、コーヒーを知りたい方にもあまり詳しくないよという方にも楽しんでいただけたら嬉しいです。

■プールの底から月を見る 星野文月
最後の1冊は長野県出身、星野文月さんのエッセイです。
個人的な意見になってしまうのですが、共感する事も多く、新しい見かたや考え方をそっと置いていってくださるような、そんな文章や言葉がたくさんあります。でも共感をする事や何かを受け取る事だけが「いいこと」ではないし、色々な選択肢や可能性があるんだよなと思わせてくださる本でした。

どの本もおすすめというより、好きだから紹介したいという想いが強いかもしれません。。

M:
有難うございます!次回手に取ってみようと思います。またお店に伺う楽しみが増えました。
珈琲と本。
いいですよね、喫茶店って。
今日は沢山の丁寧なお話、有難うございました!

mame mura coffee 田村さん。

 

 

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